※倭が痛覚を戻すのお話です。
※作中で特に2人の暮らしぶりが描かれてなかったので、同棲設定です。


夏の暑い夜。
あたしはすることもなしに、ごろごろと布団の上で寝転がっていた。
時刻は7時をちょっと過ぎた頃。いつもならこの時間はコウヤも帰ってきてるんだけど、夕飯の材料を買ってくるのを忘れたとかで、一旦家に帰ってきた後また外に出ちゃったんだよね。 あたし達は2人暮らしで、食事当番を日替わりでやってるんだけど、江夜にしては珍しく食事当番っていうことを忘れてたみたい。あたしはしょっちゅう忘れるんだけどね。 そのたびにコンビニ弁当で済ましちゃうんだけど、コウヤは几帳面だから、さ。だからあたしは今1人。


シンとした室内の空気に耐えられず、テレビをつける。なんか面白いのやってないかなあ、ってテキトーにチャンネルを変えてたら、夏らしーいあの番組がやってた。

「・・・あ、本怖じゃーん」

丁度最初の体験談が始まったところだ。あたしはそれを見ることにした。すると、ガタガタバタンと玄関から音がして、それからあたしがいる部屋のドアが開いた。

「おっかえりィ、コウヤ。今日のご飯何?」
「酢豚。・・・って何これ。本怖?」
「そうだよぉ。やっぱ本怖見ないと、夏が来たって感じしないよねぇ」

・・・とコウヤと言葉を交わしていると、テレビから『うわぁぁぁぁ!!』っていう、男の凄い叫び声がした。
そのすぐ後に、あたしの腕に違和感。左腕を見ると、コウヤがぎゅ、としがみついていた。

「コウヤ?どした?」
「・・・・・・」

再びテレビから悲鳴が聞こえると、コウヤはさっきよりも強くあたしにしがみついた。んで、二の腕に顔をうずめた。これはもしかして・・・いや、しなくても・・・。

「コウヤ、怖いの?」

あたしの言葉にコウヤはこくりと頷く。

「見たくない」

コウヤがお化け嫌いなんて知らなかった。今までそんなにホラー系の見たことなかったからね。それにしても、そこまで嫌ですか。
あたしの腕にしがみついてるコウヤがかなり可愛く見えるんだけど、酷いかな、あたし。
でもここでチャンネルを変えるのも何だかもったいない気がして、あたしは食い下がった。

「でも、ずっと楽しみにしてたしなあ。これやるの」

そう言うと、コウヤは顔を上げて目をまあるくした。
お、あたし達結構付き合い長いけど、コウヤのこんな顔見るの初めてだ。

「い、嫌。お風呂入れなくなる」

・・・なんかもう、涙目だ。ちょっと可哀想。でもあたしだって、見たいもんは見たい。だから、さ。

「じゃあさ、一緒にお風呂入ったげる」
「・・・え?」
「夜寝れなくなったらあたしの方に来て良いからさ。ね?それなら怖くないっしょ?」

交換条件。
あたしが本怖見るかわりに、コウヤのお守り(?)をする。
っていうかまあ、基本的に得するのはあたしなんだけどね、この条件。
本怖見れてコウヤといちゃつける。うん、我ながらナイスアイディア。

そんなあたしの邪心を知らず、それなら・・・と条件をのむコウヤ。

「よし、決まりね!じゃあちゃっちゃとご飯つくろ!」
「うん、良いけど・・・。ヤマトも手伝ってよね」
「はいはい」





*
・・・そして、夜。
うぅ、暑い。
いくらタオルケットとは言え、2人で密着っていうのは、キツイ。
・・・いや、暑いって言うのはちょっと違うな。あたし達2人はそういうの感じないから、暑いって言うよりは、じっとりと纏う汗がただただ気持ち悪いんだ。
そんなあたしとは反対に、気持ち良さそうに寝息を立てているコウヤに、ちょっと嫉妬する。

・・・て言うか、あたしが暑い原因は9割コウヤなんだけど。
確かにあたしは、「怖くなったらこっち来て良い」と言った。けど、コウヤがあたしの腰にガッチリ腕を回して寝てるもんだから、離れようにも離れられない。
・・・元凶はあたしだから、剥がそうにも剥がせない。

もしかしたら、お風呂でごにょごにょ・・・とかごにょごにょ・・・とかしたあたしへの仕返しかも知れない。
何をしたかはあえて言わないけど。
ごめんねコウヤ・・・と、こっそりコウヤの唇に口づける。
あーだめ。明日絶対寝不足だ。さいあく。

すると、腰に回っている腕の力がさっきよりも強くなった。

「・・・寝たふり?」
「まあね。汗が気持ち悪くて寝れない」
「なんだ、コウヤもか・・・。って、離れるって言う選択肢はないんだ?」
「・・・仕返しだよ」

やっぱりね。あたしはコウヤに気付かれないように苦笑する。
・・・あ、良い案思いついちゃった。

「よく考えてみたらさ」
「何?」
「寝れないなら、寝なければ良いんだよね」
「は?」

言うが早いか、あたしはコウヤの唇をふさいだ。
突然の行為に油断したのか、あたしの腕に回されているコウヤの腕が一瞬緩んだ。
その隙を逃さず、身体をコウヤの上に・・・そう、押し倒したような体勢をとる。

「ヤマト!!いきなり・・・っ」
「へへーっ。良いじゃん、別に?」
「よくな・・・んんっ」
キスはさっきよりも深く、ね。

「ね?何もしないでくっつきあってるより、よっぽど有意義じゃん?」
「・・・・・・」

コウヤは何も言わない。けど、暗闇でもわかるくらい顔を真っ赤にしてるのはわかった。可愛い。
もうここまで来たら我慢できない。でも一応確認はとっておくことにした。

「何も言わないなら、このままやっちゃうよ?」

と、コウヤの首筋に顔をうずめた時、小さく声が聞こえた。

「・・・・・・何もしないよりは、良い」

はぁい、これで合意の上、ってわけね。
しっかし、コウヤも素直じゃないなぁ。素直に「やりたい」って言わないんだもんね。
でもあたしも、ホントはわかってた。覆いかぶさってキスすれば、コウヤはそんなに抵抗しないってこと。

ちょっとノッてきたところで、思い出したようにコウヤが言った。

「ぁ、ヤマト、明日学校・・・」
「サボれば良いじゃん?」

コウヤは優等生だからあたしに何か反論するかと思ったけど、そんなことなかった。
やっぱり可愛い。

・・・うん、前言撤回。
寝不足でも良いや。
明日は学校サボって1日中好きなコトしてよう。コウヤと2人で。




ま、今日はあたしの完全勝利ってことで。

end
書いてるとどうしても薄暗いのになっちゃうので、明るい系を目指したつもりです。

2010年8月19日