あたしには年の離れた姉がいる。
姉が14の時に生まれたのがあたし。つまりは一回り以上も年が離れていることになる。
あたしはよく姉といっしょに遊んだものだった。両親の話によると、物心つく前から姉にひっついていたらしい。母はそんなあたしのことを、「あんたはぐずってもお姉ちゃんに抱っこしてもらうとすぐ泣きやんだからねぇ」とあきれながら言うのだった。
姉といっしょに遊んだ、と言うのは語弊があるかも知れない。『姉に遊んでもらっていた』と言う表現の方が正しい。
例えば、おままごとなんかがその代表だ。その1番最初の記憶は、あたしが3歳くらいの時のものだ。姉がパパで、あたしがママ。子供はぬいぐるみ。おままごとをするときはたいていその配役だった。

17歳でおままごとなんて、普通はしない。それでも姉はあたしに付き合ってくれた。

『いってらっしゃい、パパ』
『うん、行ってくるよ。お給料いっぱいもらってくるからね』
『・・・?おきゅうりょうって何?』
『それはね・・・』

と、こんな具合に、あたしが飽きるまで。

それはあたしが幼稚園の友達を連れてきたときも同じで、あたしが友達と遊んでいる間、にっこり優しく微笑んであたしの隣に居るのだった。

そんな姉はあたしにとって自慢の姉だった。
友達が「はづきちゃんのおねえちゃん、すっごくやさしいね!」と言う度、誇らしい気持ちでいっぱいになった。
同時に、何かどろりとしたものが胸の中に渦巻いた。

多分それが最初の嫉妬だったと思う。

あんたなんかよりも、あたしのほうがおねえちゃんにやさしくしてもらってるんだからね。

声に出しはしなかったけれど、そんな想いが胸に宿ったのは事実だった。


それから、家に友達を呼ぶたびにそんな想いが胸に宿った。
でもまだ小さかったあたしは、その想いに付ける名前を知らなかった。『いやなきもち』。そんな風に思っていた。
姉を独占できない辛さに耐えられなくなっていったあたしは、やがて友達を家に呼ばなくなった。友達との交流が無くなったわけではない。ただ、遊び場所が相手の家に変わっただけ。

「最近、葉月ちゃんのお友達来なくなったね」
不思議そうに姉はそう言ったものだった。
そんな時は何も言わずにぎゅっと抱きつく。そうすると姉は何も言わなくなった。そして、あたしの頭をそっと撫でた。
それだけであたしの気持ちは満たされた。あたしだけのお姉ちゃん。そんな優越感があった。


―友達と遊ぶ時は友達の家へ行く。
家では姉といっしょに居る。
そんな風に日々は過ぎて行った。


流石におままごとはしなくなった小学生のあるとき、あたしの胸に宿ったあの感情が「嫉妬」であるということを知った。
確か5年生くらいだったと思う。少女漫画か何かを読んで知った気がする。
その頃は姉も大学を卒業していて、地元のどこかの会社で事務員をしていた。
だから小さい頃より触れ合う時間が少なくなった。あたしはそれが少し寂しかった。
そんなあたしの心の動きを敏感に察した姉は、会社が休みの週末はよく買い物に連れて行ってくれた。
デパートで買い物をしたり、カフェでケーキを食べたり。
恋人同士みたい。と言ったら、姉は凄くキレイに笑った。
その笑顔が今でも鮮やかに思い出せる。

あたしはその頃、姉の右手の薬指の指輪の意味を知らなかった。



*
そして今。
今やっと、14歳のあたしは右手の薬指の指輪の意味を知った。

昔2人でよくおままごとをして遊んだリビングに居るのは、あたしと、姉と、それから1人の男。
あたしは訝しげに男を見る。

「葉月ちゃん、紹介するね。ずっとおつきあいしてたんだけど・・・」
少し照れくさそうに、男の紹介をする姉。
「木田です。文香から話は聞いてるよ。自慢の妹だって」

あたしが自慢の姉だと思っていたように、姉もあたしのことを自慢の妹だと思ってくれていた。けれど、今日突然現れた得体のしれない男にそんなことを言われても、全然嬉しくなかった。

母は「素敵な人ね」なんて男に声をかけている。父に至っては「結婚適齢期」がどうのこうのと話をし始めた。
木田は恥ずかしそうに頬を掻く。その行動に、悪い奴ではなさそうだ、という感情が芽生えかけたが、頭を振ってその感情を吹き飛ばした。

信じられない。

姉があたしから離れて行ってしまうなんて、そんな。

視界がぐらりと揺れた気がした。けれど気がしただけで、身体は倒れなかった。

母があたしに、「将来お義兄さんになるかも知れないんだから、ちゃんと挨拶しなさい」と妙に上機嫌で言った。
姉が微笑みながらあたしを見ているのを感じた。

「木田・・・さん、よろしくお願いします」
「うん、よろしくね」

やっぱり、木田は悪い人ではないのだろう。どことなく振る舞いが上品で人当たりが優しい。

そう思った刹那、涙があふれてきた。


姉はあたしから離れて行ってしまう。もう駄目だ。
あたしだけを見ていて欲しかった。けれどそれはどうしようもなく子供な独占欲だった。

あたしは母の「葉月!?」と呼ぶ声を振り切り、リビングを出て自分の部屋のベッドにダイブした。


もうどうして良いかわからない。

大好きな姉。

あたしから姉を奪った、あの男。嫌いだ嫌いだ。大嫌い。姉が認めた人でも。
あたしはおままごとで子供役をやらせていたぬいぐるみをひっつかんで、それに顔を押し付けて泣いた。
・・・多分これは憎しみと言う感情なんだろう。友達とケンカをして口を聞かなくなった時よりももっと強い。



ある意味、憎しみも嫉妬も独占欲も、全て姉から教えてもらったようなものだと思った。


けれどあたしが小さいころから持っている揺るぎのない感情が『恋』なのかは、残念ながらわからない。



end

姉妹の話を書いてみました。

ぱっと思いついたネタ・・・。どうしても二番煎じっぽくなってしまう・・・(´_`)
2010年8月20日