※「最後の制服」第1巻に収録されている「スターマイン」と言うお話が下敷きになっています。
打ち上げ花火が終わった夜の学校の屋上にあたしと紅子は2人きりだった。
一緒に花火を見ていた佐原と楓子は、花火が終わると同時に帰っていった。楓子は梅酒一口で酔いつぶれたため、佐原に背負われて。
「…なんであたしたちは帰らないのかな」
「んー。2人きりになりたかったから」
「寮の部屋に戻れば嫌でも2人きりだと思うがな…」
誰もいない夜の屋上には、ふたりの声がよく響く。
明かりのない真っ暗な中ではあたし達がどれくらいの距離感を保っているのかがわからない。近くにいるのか、遠くにいるのか。近すぎるのか、遠すぎるのか。
ぼんやりとそんなことを考えていると、隣で紅子が動く気配がした。帰るのだろうか。
「ね、紡。上見て、上」
「上…?」
言われるがままに空を見上げると、そこには満天の星空が広がっていた。
「綺麗でしょ?」
「ああ…」
「2人きりで見たいなって思ってさ。星を眺めることなんて滅多にないでしょ?」
「そうかも…」
暗いから確認はできないが、紅子がいたずらっ子のような笑みを浮かべているのは容易に想像できた。確かに、ため息が出るほどに綺麗だ。
視線を巡らせば、天の川。
(…降ってきそう)
まるで小学生のようなことを思ってしまったことに、自分でも驚いた。ひとり恥ずかしく、少し身動ぎをする。
すると横からクスリと笑い声がした。
「…紡、今『星が降ってきそう』とか考えたでしょう」
「なっ…。考えてないし」
「嘘つき。紡って結構ロマンチストよねぇ」
クスクス、と紅子の声が大きくなる。こいつはあたしの嘘をすぐ見破る。それがいつも、悔しい。
恥ずかしさと悔しさを心の中で味わっていると、紅子がぎゅうっと抱きついてきた。
「わっ、なんだよ」
「紡のそう言うところが好き」
「そう言うところって…なんだよ…」
「素直じゃないとことか」
「…どうでも良いから離れ…うっ!?」
汗でべたべたするのと、胸の高鳴りを気取られるのが嫌で、半ば無理矢理紅子を引き剥がそうとしたら、首筋を舐められた。
「ちょっとしょっぱいね」
「っ…!。なに舐めてんだ!あと離れろ」
今度こそ紅子を引き剥がす。生々しい舌の感触が消えず、ぞくりと肌が粟立った。
「ごめんね。欲情しちゃった」
「っはぁぁぁぁ!?」
爆弾発言。
欲情。紅子は何がしたいんだ。と言うか欲情したからって舐めるか、普通。いや紅子は時々普通じゃない行動をするんだが。しかし暑さで頭がおかしくなったとしか思えない。
「ああああんた、おかしいよ」
これはいわゆる貞操の危機なのではないか。暗闇とは言え、初体験が屋外は避けたい。嫌な汗が吹き出た。
「あれ、もしかして本気にしちゃった?」
「…は?」
「嘘に決まってるじゃない!こんなに簡単にひっかかってくれるなんて、紡はやっぱり面白いね」
けらけらと紅子は心底楽しそうに笑う。あたしはほっと息をついた。
「あのなあ…。やって良いことと悪いことがあると思うんだが」
「うーん。いやね、こんなに近くに居るっていうのがなんか幸せでさ、つい」
「だからって、舐めるのはどう考えてもおかしい」
「ふふ、許してよ、紡」
「たく…」
口では悪態を付きつつも、どこか喜びを感じているあたしが居た。
だって紅子の言う通り、あたし達は手を伸ばせば触れられるくらい近くに居る。
その事実がどうしようもなく幸せなことに気付いたからだ。
…暗闇で良かった。
今のあたしは紅子に見られたら多分一生笑いの種にされ続けるようなしまりのない顔をしているから。
「ねぇ紡」
「何?」
「来年もさ、またふたりで来ようね」
「…うん」
来年も、再来年も、その先も。
今日と同じようにふたり並んで過ごせれば良い。
…そんなことを思うなんて、ちょっとあたしらしくないな、なんて思った。
(ずっとそばにいたい、なんてさ)
2012年3月24日